Dr.コラム

脳をさびつかせない、3つの秘訣

軽度認知障害になっても、
生活習慣次第で認知症は防げる

須貝佑一先生

Profile

社会福祉法人浴風会浴風会病院精神科医、認知症介護研究・研修東京センター運営委員。老年精神医学を研究し、長年、認知症患者の診察にあたっている。『朝夕15分死ぬまでボケない頭をつくる!』(すばる舎)など、著書多数。

いつまでもずっと、自分らしく生きていきたい。そう願う人が多い一方、認知症となり日常生活を送ることさえ困難になる方が増えています。認知症はどんな原因で発症するのか、どのように予防できるのか、30年以上に渡り認知症を研究している社会福祉法人浴風会 須貝佑一先生にお話を伺いました。

認知症の代表格「アルツハイマー型認知症」と、その症状

認知症を引き起こす病気の約6割はアルツハイマー病

「認知症」という言葉は、厳密には病名ではありません。
認知症とは脳の機能低下によって、記憶や判断能力が落ち、日常生活を送ることが困難になった状態のことを指します。
認知症を引き起こす病気は多数ありますが、そのうち約6割を占めているのが、アルツハイマー病です。その最大の特徴は、年齢依存の病気であること。ほかの病気では発症年齢のピークを超えると徐々にリスクが減っていきますが、アルツハイマー病の場合は年をとるほどにリスクが増していくのです。

記憶を司る海馬が機能しなくなり、アルツハイマー型認知症に

主に老化によって脳の機能がうまく働かなくなると、脳の組織にβ(ベータ)タンパクと呼ばれる物質が、異常な早さでたまります。これがアルツハイマー病の状態です。
ただしアルツハイマー病にかかっただけでは、まだ生活に支障をきたすことにはなりません。とはいえβタンパクは、本来なら分解されるべき不要な物質です。蓄積すると脳の神経細胞に「タウ」という異常タンパクを作り、悪影響を及ぼします。
βタンパク蓄積の悪影響が最初に現れるのは、脳の「海馬」と呼ばれる部位。海馬の役割は、記憶や情報の整理です。海馬がうまく働かなくなると、物事の前後関係がわからなくなったり、覚えているはずのことをすっかり忘れてしまったりといった症状が現れることになります。
こうして、アルツハイマー病が要因となり、生活に支障をきたした状態がアルツハイマー型認知症です。

アルツハイマー型認知症が進行すると

アルツハイマー型認知症が進行すると、自立した生活ができなくなり、ゆくゆくは寝たきりになる可能性も出てきます。また、最近では相手の気持ちを読み取る力が落ちることもその症状として考えられるようになりました。周囲に合わせられなくなり、場違いに怒る、大声を出す、説得に応じないなど、対人関係上適切とは言えない行動を取るようになってしまいます。

認知症にならないための秘訣

正常な老化の範囲から認知症に至るまでには、軽度認知障害という非常に軽い認知症の徴候が現れた状態があります。実はこの軽度認知障害になってしまっても、対策をすることで認知症化せずに、軽度認知障害に踏みとどまることができるケースが多いんです。そのため、認知症は早期発見と対策が大切。
さらに、この軽度認知障害や認知症の発症を遅らすためには、日ごろからの生活習慣も大切なんです。

軽度認知障害を見抜いて早期発見

チェックリストを活用して「正常な老化」か「軽度認知障害」か見分ける

実は私たちの脳にある神経細胞はアルツハイマー病にかからなくても、日々減少しています。
年齢とともにもの忘れが増えたり頭の回転が鈍くなるのは、自然なことでもあるのです。しかし神経細胞の数は膨大であるため、80歳になっても当初の約8割が残っており、生活に支障をきたすほどには至らないので、ご安心を。
一方アルツハイマー病になると、正常な老化の2~3倍のスピードで認知能力が落ちていきます。ただ、その症状はある日突然重くなるわけではありません。まずは、人の名前を忘れる、家電製品の操作にまごつくといった徴候が現れ、それを年のせいだと思っているうちにいつの間にか、ついさっき起きたことまで忘れるようになってしまう、というように次第に症状が深刻になっていくのです。
見過ごされがちな、非常に軽い認知症の徴候が現れた状態は「軽度認知障害」と呼ばれています。軽度認知障害は、まだ生活に支障をきたさない、認知症の前段階です。最近の研究では、軽度認知障害の段階で発症に気付き対策を行うことで、進行を遅らせることができると分かっているため、早期発見が非常に重要です。
自分のもの忘れが「正常な老化」なのか、それとも「軽度認知障害」なのか見分けるのは、非常に難しいもの。そこで、軽度認知障害発見の目安として用いたいのが、次のチェックリストです。チェックリストは、自分だけでなく家族にもチェックしてもらいましょう。自分でつけたチェックが家族よりも多ければ、心配ありません。逆に家族のチェック数の方が多ければ、注意が必要です。

認知症化させず、軽度認知障害に留める

対策は「運動」と「頭を使う習慣」

軽度認知障害の人が5年後に認知症化する確率は、あるデータによれば、約50%。
このデータが示すのは、軽度認知障害になったからといって手遅れではないということです。残りの50%の人たちは、認知症化せずに、軽度認知障害の段階で踏み留まります。
一度認知症化してしまうと、完治させることは非常に困難です。日常生活に支障のないレベルである軽度認知障害の時期をできるだけ長く保ち、認知症化を回避しましょう。
では、認知症化を回避するために必要な対策を解説していきます。
ポイントは「運動」と「頭を使う習慣」です。

30分以上の有酸素運動を週3日以上が目安
運動

目安として、30分以上の有酸素運動を週3日以上行うのがべストです。
たとえば歩く場合には、ぶらぶらと散歩するのではなく「やや心拍数があがるくらいの“ウォーキング”」になるように心がけること。30分間続けるのがきつい場合は、「1〜2分だけスロージョギングをして、また歩いて」を繰り返しましょう。
半年から1年ほど続けると、ずいぶんと認知能力に違いが出てきます。ウォーキングだけでなく、ストレッチヨガなどもおすすめです。継続するためにも、自分にあった運動方法を見つけてください。

誰かと一緒に楽しみながら知的な活動を
頭を使う習慣

頭を使う習慣としておすすめなのは、誰かと一緒に楽しみながらできる、知的な活動です。楽器を演奏したり、チェスや将棋をしたり。最近では、年配者に麻雀が人気のようです。
認知症になると、相手の気持ちを理解する機能が衰えることがあります。そのため、相手が考えていることを想像しながら行うゲームは、非常に有効な対策です。誰かと一緒に取り組むことで、継続しやすいというメリットもあるので、仲間と楽しみながら取り組んでみてください。

生活習慣の改善で発症自体を遅らせる

生活習慣病を予防することも認知症対策の一つ

アルツハイマー型認知症を60代で発症することは、非常にまれです。しかし予防という面では、若い頃からの生活習慣にも、気を配っておきましょう。
というのも、アルツハイマー型認知症になりやすい要因として、生活習慣病が挙げられるのです。とくに、2型糖尿病(インスリンの分泌量が十分ではないなどの状態)にかかっているとアルツハイマー型認知症になる確率は約2.5倍。メタボリックシンドロームも、アルツハイマー病のリスクを高めます。長年に渡る食生活や運動などの健康管理が、脳の健康にも影響を及ぼすわけです。

若い頃からの生活習慣が大切

身体だけでなく、若い頃に頭をどれだけ使ってきたかも、高齢期の脳の健康を左右します。
ある報告によれば、20~30代時点の文章能力が高いと、高齢になったときに認知症を発症しにくいとか。つまり、文章の読み書きなどの力をきたえることで、認知症発症のリスクを下げられるということです。
このことは、101歳まで生きた修道女シスター・マリーの話からも知られています。

101歳まで生きた修道女シスター・マリー

シスター・マリーは100歳を超えても自分で生活し、知能テストでも高得点を獲得していました。
ところが死後に病理解剖をしたところ、脳はアルツハイマー病に侵されていたそうです。そのような脳の状態でも認知症化しなかったのは、長年にわたって、修道院で知的な活動を行ってきたことが要因ではないかと考えられています。つまり、若いうちから頭を使った生活をしておくことで、アルツハイマー病にかかっても、それをカバーする脳の予備力を蓄えることができるというわけです。

現在、認知症研究の現場では、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせる薬までは開発されているものの、元の状態に戻す薬や確固とした治療法は未だ発見されていません。そのような中で、認知症への有効な対策が判明していることは、一筋の希望といえるのではないでしょうか。
脳をさびつかせないライフスタイルを若いうちから築き、継続させていきましょう。

その他のコラム