Dr.コラム

生活習慣病は、一無・二少・三多で対策

たった一つの生活習慣でメタボリックシンドロームのリスクは大幅に下がります

和田 高士先生

Profile

東京慈恵会医科大学大学院健康科学教授。予防医学、生活習慣病を専門に、日本人間ドック学会理事、日本肥満学会評議員も務めている。『検査と数値を知る事典』(日本文芸社)など著書多数。

日本人の死因のうち約6割を占める、高血圧や糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病。これらの病気は、若い頃からの日々の生活習慣が発症に深く関わっています。そこで毎日の生活に無理なく取り入れられる6つの健康習慣について、メタボリックシンドローム研究の第一人者であり、日本生活習慣病予防協会理事の和田高士先生に伺いました。

生活習慣病をもたらす原因

日本人に多い生活習慣病とは?

生活習慣病とは、不健康な生活習慣を続けることで発症する様々な疾患をとりまとめたものです。 高血圧や糖尿病、メタボリックシンドロームなど、日本人に多い生活習慣病は10種類ほど。その中でも最も多いのが高血圧です。これは日本人の塩分摂取量が多いことが原因だと考えられます。 次に多いのは、脂質異常症(高脂血症)です。特に、食べすぎや運動不足による内臓蓄積型肥満に、血圧の上昇などが合併したメタボリックシンドロームという病態もこの10年で広く知れ渡るようになりました。日本人は欧米人と体質が違うために、軽度の肥満でもメタボリックシンドロームになりやすいのです。こういった疾患を今では誰しもが耳にしたことがあると思います。日本ではこのところ生活習慣病がしばしば問題として取り上げられていますが、その危険性は、本人が気付かないうちに病状が進行してしまうところにあります。

日本人に多い生活習慣病

原因は「喫煙」「食生活」「身体活動など」

ここ20年ほどの研究で、つい見逃してしまうような小さな異常の積み重ねが複合的に作用して動脈硬化を急速に進行させていることが判明したのです。内臓脂肪が腸の周囲に溜まってくると、軽度ですが血圧の上昇、血液中の脂質の異常を引き起こし、これらが組み合わさることで動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中などの重度の病気が生じやすくなるのです。
また、血圧やコレステロール値は見た目ではわかりませんから、検査やチェックをして初めて発見できるケースが多いのも事実です。自覚症状が出にくい生活習慣病だからこそ、毎日の生活から気をつけたり、早めに検査を受けたりすることが大切です。
生活習慣病の発症には遺伝要因、環境要因も関わってくるため健康的な生活を送っていても残念ながら発症してしまうこともありますが、生活習慣を改めることで発症のリスクを大きく下げることができます。
原因となる生活習慣には「喫煙」「食生活」「身体活動など」が挙げられます。

生活習慣病を防ぐ6つの健康習慣「一無・二少・三多」とは?

生活習慣病の原因は6つの健康習慣で対策

生活習慣病の原因となる「喫煙」「食生活」「身体活動など」は6つの健康的な生活習慣(一無・二少・三多)ができているかがチェックのポイントです。
一無」とは無煙=煙が無い、つまり煙草を吸わないということです。
二少」は「少食」と「少酒」。食べすぎを避け、お酒も控えめにしましょう、という意味です。
そして「三多」は、「多動」「多休」「多接」。たくさん動いて十分な運動量を得て、たっぷりと休養を取り、人やものと触れ合う機会を多く持つということを意味しています。

一無・二少・三多の健康習慣がもたらす効果

生活習慣病の代表とも言えるメタボリックシンドロームは、さきほど解説した「一無・二少・三多」の6つの健康的な生活習慣を多く実践することによって、発症率が下がるという研究結果が出ています。
右の図のように、何も実践していない人のメタボリックシンドロームの発症率は21%にもなりますが、6つの健康習慣すべてを実践している人は7%に下がっています。1つ実践しただけでも18%に下がり、 6つの健康的な生活習慣を1つ増やすごとに発症率が2〜3ポイントずつ下がっていることもグラフから分かります。
他にも、高血圧、動脈硬化、糖尿病など、その他の生活習慣病についても、 6つの健康的な生活習慣を実践することで発症率を下げられることがわかっています。
私自身もこれらを実践しており、煙草も吸いませんし、お酒もそう飲みません。食べ放題のお店には行かないようにしていますし、休養もしっかり取れていると思います。すべて実践するのは難しいと思う方は、どれか1つでも始めてみてください。

一無=無くすべきもの、二少=減らすべきもの

「一無」 無煙(タバコを吸わないこと)

喫煙は肺がんなどのがんの罹患率を高めます。また胃の血流が悪くなることで生じる胃潰瘍や、肺の気管支が狭まることで生じる慢性閉塞性肺疾患を起こす危険もあり、無煙は今日からでも始めたい習慣です。

無煙による生活習慣病対策

「二少」 少食(食べ過ぎないこと)

食べすぎを防ぐために「食事量を腹八分目に抑える」とよく言われますが、腹八分目を感覚的に意識するのはむずかしいと思います。標準的な日本人の1食分の量は、一般的に販売されている駅弁や幕の内弁当くらいの量であると言えます。 健康に問題のない人は1食分食べても問題ありませんが、体重を減らす必要がある人は、その8割を食べると丁度良いと言えます。
しかしこれまで食べすぎていたくらいの人が急に腹八分目まで減らすのは、よほど意志が強くなければできませんし、物足らずに間食したくなることもあるでしょう。
標準的な食事量を100として、120食べていた人はまず110に、それから100、90、80と、段階的に減らしていきましょう。一般的には1ヵ月で1kg程度の減量がちょうど良いと言われています。
もし1ヵ月で3kg以上の減量をしているようでしたら、栄養不足につながりかねない無理なダイエットをしている可能性があるので、プランの見直しが必要です。

少食による生活習慣病対策

ダイエットのために安直な方法に走るのも考えものです。
「これだけ食べていればいい」などという理想的な食品は存在しないので、三大栄養素、ビタミン、ミネラルを毎日バランスよく摂りましょう。

「二少」 少酒(お酒を飲みすぎないこと)

お酒に関しても、ビールなら中ビンで1本、日本酒なら1合、ウイスキーならダブルで1杯までが適量と言えます。どのお酒も「1」がちょうど良いと覚えると良いですね。 もしもこの3倍以上飲んでいるのなら、飲みすぎだと言えます。お酒は一切飲まないなど、我慢しすぎるとストレスになり、心の健康にも良くありません。適量を守ってお酒と楽しく付き合いましょう。

無煙による生活習慣病対策

十分な運動と豊かな出会いが健康な体と心をつくる

「三多」 多動(十分に体を動かすこと)

運動不足」、「睡眠不足」、「人やものとの関わり不足による孤独感」が引き起こす疾患もあります。
運動不足対策として運動量を増やす際も、食事量の減らし方と同じように無理のない目標から始めましょう。たとえば、厚生労働省が2013年に発表した健康づくりのガイドラインでは「今より10分多く体を動かそう」という意味の「+10(プラステン)」をメインメッセージとしています。普段歩いている道のりも目的地まで少し遠回りするなど、小さな工夫をプラスすることで適度な運動になります。
外出する機会の少ない方は、犬を飼うのも良いでしょう。愛犬と一緒に散歩をすることも良い運動になりますし、運動不足を解消するきっかけとなります。

無煙による生活習慣病対策

「三多」 多休(体をしっかりと休めること)

睡眠については、必要な睡眠時間や睡眠の質は個人差が大きいため目安を挙げづらいのですが、翌朝目覚めたときに寝不足感があれば睡眠が足りておらず、すっきり感があれば十分な休息が取れていると言えます。
夜間に連続して睡眠を取ることがむずかしい方は、午後3:00までに20分程度の昼寝をするなどして、満足な睡眠を取るようにしましょう。

少食による生活習慣病対策

「三多」 多接(社会との接点を増やすこと)

心の健康を保つためにも、人やものと接する機会を多く持ってください。 休日は自宅でゆっくり過ごすという方も、趣味をつくるなど社会との関わりを増やすと、コミュニケーションを取る相手が増えるので、認知機能を保つために有効です。

無煙による生活習慣病対策

小さな目標から毎日の生活習慣を変える

生活習慣病は、少し意識を変えるだけで発症のリスクを大きく下げられますが、まだ大丈夫だと思って悪い習慣を積み重ねていくと重症化していきます。 糖尿病を例に挙げても、健康な方に比べて平均寿命が10歳も短くなるという話があるほどです。「食べすぎたな」「飲みすぎたな」と後悔してもすぐに忘れてしまうことも多いですが、そういった機会に生活習慣を改めてください。 人間の一生は長く、無理な目標を定めても長続きしません。まずは達成しやすい小さな目標から毎日の習慣を変えて、生活習慣病やそこから引き起こされる大きな病気を予防しましょう!

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