高次脳機能障害相談支援コーディネーター
「高齢者や障がい者の方々の役に立つ仕事がしたい」という強い想いをから、社会福祉法人 農協共済中伊豆リハビリテーションセンターに勤務。
障がいを持つ方の社会復帰支援、就労支援などを行っている。
「高次脳機能障害に関わらず、支援を行うということは人と人とが関わるということ、まずはご本人との信頼関係を築くことが大切ですね」。インタビュー中、終始優しい笑顔を見せてくれた土屋さんは支援を行ううえで大切なことを語ってくれた。
高次脳機能障害とは、交通事故などにより頭部に外傷を負ったり、脳卒中や脳梗塞など脳の病気を患ったりして起こる記憶障害や注意障害などのこと。「ご本人の自覚がない場合もあれば、レントゲンやMRIといった検査でもわからないこともあり、障がいの可能性を持った方のご家族や第三者に生活の様子などを伺いながら判断していく必要があります」と土屋さん。
「障がいを持った方の中には、障がいの特性上、感情のコントロールができず突然怒りっぽくなることもあります。私たち支援者側には“それは障がいによるもの”という認識はありますが、ご本人にそれを自覚してもらうことはとてもむずかしいですね。障がいの存在や特徴をまずは知ってもらうこと、それが高次脳機能障害への理解を深める第一歩ですね」と土屋さんは言う。
ケアマネジャーの仕事をしていた母について、小学生の頃から施設に行く機会があった土屋さん。高齢者の方にたくさんかわいがってもらったことから、将来は福祉関係に携わりたいと思い、高校卒業後専門学校に進学した。
就職した当初は社会福祉士としてさまざまな障がいを持つ方の支援を行っていたが、中伊豆リハビリテーションセンターに専門の高次脳機能障害相談支援コーディネーターを配置するという話があり、希望をしたという。「毎日が勉強の連続です」と日々の中で感じるやりがいを語ってくれた。「この仕事はここまでやりきったら完成ということがありません。その方の人生をコーディネートするという意味では終わりのない仕事になります。高次脳機能障害に限らず、ご本人が社会に出ていろんな人と触れ合う中でその方が笑っていきいきと生活をして『今は幸せなんです』と言っていただけたときはその方の人生に関わることができたと強く感じますね」。
「障がいを持つご本人との接し方は本当に難しいです」。土屋さんの仕事は、障がいを持った方ができるだけ元の生活に近い形で暮らしを送れるように支援をすること。ご本人の得意なことや苦手なことも一つ一つ話を聞き、ときには厳しいことを言わなくてはならない場面もあるという。「誰でも“いい人”でいたいものですが、ただ“いい人”なだけでは、最終的にその方のためになりません。必要に応じて『次のステップに進むためにはこれが必要』など、厳しいことも言わないといけません。人間関係が一時的に悪化したとしても後々『あの時に厳しく言ってもらえてよかった』と言われるとうれしくなりますね」。
障がい者支援の仕事は、一定期間サポートするだけでなく、その方の人生に関わる仕事。例えば“就労”であっても、就職支援だけではなく継続することに対しての支援も重要となる。「ご本人にあった適切な支援ができるようになるには少しでも多くの知識を得て、自分の引き出しをたくさん持つことが大切なので、日々勉強です」と土屋さんは語る。
「忘れられないエピソードはたくさんあります」。さまざまな方の人生に関わる土屋さんが、数あるエピソードの一つを話してくれた。「事故にあった高校生の女の子で、事故後、体は元気になったのですが、高次脳機能障害のため、復学しても周りの友達とうまくいかず以前との環境の変化に悩んでいました。思春期に孤独感を感じてしまったことなどから、一時期は家族と衝突してしまったり、私に対しても乱暴な言葉づかいで接していましたね」。それでも親身に支援し続けた土屋さん。最近その方にお会いする機会があったという。「今は高齢者のデイサービスのボランティアをしているそうで、言葉づかいもきちんとしていて、最近彼氏ができたなんていっていましたね(笑)。当時のことや、就労してもうまくいかなかったことなどを知っていただけに、ご本人から『今は楽しいよ』と言われたときは本当にうれしかったですね」といきいきとした表情で語る。
「明日自分が高次脳機能障害を伴っても困らない地域づくりをしたい。行政などにも働きかけながら、これからも多くの方の人生に関わりたい」と優しい笑顔で話してくれた。