国立がん研究センターがん対策情報センター長。1961年生まれ。1986年横浜市立大学医学部を卒業し、88年国立がんセンター中央病院入局。 以後、放射線診断部医長、がん対策情報センター副センター長を経て、2012年3月より現職。 ホームページ「がん情報サービス(http://ganjoho.jp/)」や「がんの冊子」などを通して、信頼できる わかりやすいがん情報の発信と普及に取り組んでいる。
多くの方が、がんはめずらしい病気、そしてかかってしまったら治らないものと思ってしまっています。しかし、日本人が生涯でがんにかかる確率は、男性で62%、女性で46%にもなり、誰もがかかる可能性がある病気です。その一方で、がんで亡くなる確率は年々減っているのも事実。早期発見し、適切な治療を受ければ、治る病気なのです。定期的な検診による早期発見と、予防のための努力が大切です。
がんは感染症が発展して発症するケースもありますが、毎日の生活習慣も影響し、発症リスクが高まることがわかってきました。喫煙や過度な飲酒など、下記のチェックリストに当てはまるような生活をしている人は注意が必要。思い当たることがある人は、生活習慣を見直すことから始めませんか?
たばこは肺がんをはじめ食道がん、すい臓がん、胃がん、大腸がんなど多くのがんに関連することが示され、たばこを吸う人は、吸わない人に比べてがんになるリスクが約1.5倍というデータもあります。
禁煙はがん予防への大きく、確実な一歩です。
たばこの煙には、依存症を引き起こすニコチンに加え、ニトロソアミン、ニッケル化合物、カドミウム、ヒ素、六価クロムなど約70種の発がん物質が含まれ、これらが血液を介して全身を巡ってしまうため、咽頭がんや肺がんだけでなく、さまざまながんを引き起こす原因になってしまいます。
たばこの副流煙(吐き出した煙)には、約70種の発がん物質を含め、粒子成分約4300種類、ガス成分約1000種類が含まれ、喫煙者本人だけでなく、周囲の人にも健康への悪影響が及びます。
禁煙は1人ではなかなかできるものではありません。禁煙外来など医療機関で専門家とともに取り組むのも成功への近道です。最近は、禁煙補助薬を使った禁煙プログラムなどもあり、まずは受診をおすすめします。また、家族など周りの人の協力も大切です。
多量の飲酒によって、アルコールに含まれる発がん性物質が血液を介して全身に巡ってしまいます。
日本人男性を対象とした研究では、1日あたり純エタノール量が23g(日本酒1合)を超えるとがんのリスクが高まるというデータもあり、中でも食道がん、大腸がんと強い関連があります。
お酒を飲む席で、目安量の3倍飲んでしまったというときは2日間空けるなど、複数日単位の平均目安量と考えて調整しましょう。また、毎日お酒を飲む人も、肝臓を休める意味でも週に2日は休肝日をつくりましょう。
塩分のとりすぎ、熱すぎる飲み物や食べ物をとることががんと関連することが明らかになっています。
特に塩分と関わりが強い胃がんが日本人には多く見られ、実際欧米人に比べ塩分摂取量が多いといわれます。
一方で、野菜や果物を積極的に食べることで、健康維持だけでなくがんになる確率が下がることが期待されています。
塩分が胃の粘膜を傷つけ、胃がんのリスクにつながってしまいます。右記の目安量を参考に、塩分濃度の高い食べ物は控えめにするようにしましょう。
野菜や果物を摂取することは、食道がん、胃がん、肺がんの予防に関連性があるといわれています。厚生労働省が推奨する目安量を意識しましょう。
熱すぎる飲み物や食べ物をとることで、食道の粘膜を傷つけ、食道がんのリスクが高まるといわれています。熱い飲み物や食べ物は少し冷ましてから食べるよう習慣づけることが大切です。
身体を動かす機会が多い人ほどがんの発症リスクが低くなり、休日などにスポーツをする機会が多い人は、よりリスクが低下するというデータもあります。
普段の生活の中で可能な限り身体を動かす時間を増やしていくことが健康維持につながります。
まずは毎日60分程度、生活の中で身体を動かす機会をつくり、週に1度は息がはずみ、汗をかく程度の運動を60分ほど行いましょう。運動習慣を身につけることで免疫力アップにもつながります。
運動に慣れていない人は、通勤のときにひと駅手前で降りる、階段を使う、車に頼りすぎず歩けるところは歩くなど、できることから始めましょう。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにするなど、少しずつ運動習慣を持つようにすることが大切です。
下のグラフのように、太りすぎていても、やせすぎていても、がんを発症して死亡するリスクが高まるというデータがあります。 太りすぎは栄養過多、やせすぎは栄養不足になっている可能性があります。がんだけでなく他の病気を防ぐ意味も含めて適正体重を維持しましょう。
「社会と健康研究センター」肥満度(BMI)とがん全体の発生率との関係について(Cancer Causes and Control 2004年15巻 671-680ページ)
太りすぎ、やせすぎ、いずれの場合も食生活の乱れや運動不足など、がんや他の病気につながる生活習慣を送っている可能性があります。BMI値を基準に、正しい体重管理をするための生活習慣を目指しましょう。
ここまで説明した「5つの健康習慣」すべてを実践すると、がんになるリスクが大きく下がるというデータもあります。健康で長生きするためにも、実践するよう心がけましょう。
「5つの健康習慣」を実践し、日頃から自身でがんのリスク低下を心がけることが大切です。また、日本では5割程度の方しかがん検診を受けていないというデータもあるので、健康習慣を意識するのと同時に、定期的に専門機関のがん検診を受けてください。国の定めた方針に従って、胃がんであれば2年に1回、大腸がん、肺がんの場合は1年に1回検診を受けることで、がんの早期発見・治療につなげましょう。 また、がんに対する疑問や不安のある方は、下記の『がん情報サービスサポートセンター』や地域のがん相談支援センターに訪ねてみることをおすすめします。