Dr.コラム

暮らしに”+1”かんたん健康習慣

寿命までの10年間を介護されて過ごすか、それとも健康に過ごすか

石川恭三先生

Profile

アメリカ・ジョージタウン大学留学を経て、杏林大学医学部勤務。現在は同大学内科学名誉教授。専門の循環器・心臓病をはじめ幅広く活躍し、テレビやラジオなどのメディアへの出演のほか、全国各地での特別講演も行っている。
『60歳からの5つの健康習慣』など著書多数。

男性、女性ともに平均寿命が80歳を超え、いまや世界一の長寿国となっている日本。ところが日本人の「健康寿命(日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる期間)」はそれよりも約10年短いことがわかっています。いつまでもイキイキと健康に暮らすために、気軽に取り入れられる健康習慣について杏林大学名誉教授 石川恭三先生にお話を伺いました。

健康寿命が平均寿命よりも短くなる原因とは

主な原因は寝たきりになりやすい病気

健康寿命とは、日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる期間のこと。日本人の健康寿命は、平均寿命に対して約10年間短くなっていますが、その原因は主に病気によって寝たきりになるためです。
寝たきりの原因となる病気の約50%は、脳卒中や脳梗塞などの脳血管疾患とアルツハイマー病に代表される認知症の2つです。

日本人に多い生活習慣病

寝たきりの原因となる病気の発症には、いずれも生活習慣が密接に関わっています。
そこで、こうした疾患を予防し健康な心と体を保つために、普段から無理なく、気軽に取り入れられる健康習慣の実践をおすすめします。

健康寿命を延ばすために気軽にできる健康習慣

日常の中で実践できる健康習慣のススメ

脳卒中や脳梗塞(脳血管疾患)、アルツハイマー病(認知症)などの疾患は、日ごろの生活習慣を変えることで、予防することができます。そのために、生活に気軽に取り入れられる健康習慣「一読」「十笑」「百吸」「千字」「万歩」という考え方をご紹介します。

ただし健康習慣の「呼吸」や「歩行」は何となく行っているだけでは、残念ながらあまり効果がありません。
これらの行為を有効なものとするためには、効果的な深呼吸の方法を実践し、歩行をウォーキングへと発展させる必要があります。
そこで、無意識に行っている「呼吸」と「歩行」を効果的に行う方法を解説していきます。

無意識に行っている「呼吸」と「歩行」を効果的に行う方法

正しく実践する「深呼吸」と「ウォーキング」がポイント

無意識に行っている「呼吸」と「歩行」も、意識することで健康習慣となります。ここでは、効果的な「呼吸」と「歩行」のポイントを解説していきます。
「呼吸」のポイントは、効果的な深呼吸の方法を実践をすること。「歩行」のポイントは、正しいフォームで“ウォーキング”を行うことです。

深呼吸のポイント

深呼吸は一度に10回、日に10度行うことを目標に!

深呼吸をする際、ゆっくりとした腹式呼吸で息をゆっくりと吐き出せば、副交感神経が長く活動して、体はリラックスした状態になります。
また、口で呼吸をすると空気が十分に浄化、加湿、加温されず細菌やウイルスなどの有害物質とともに肺に届いてしまいますが、鼻で呼吸をすると鼻腔を通る間に、これらが十分にろ過されてから体に届きます。
鼻呼吸を身につけるには意識して口を閉じること。
腹式呼吸をするようにすれば、それだけでも自然と鼻呼吸になるはずです。

ウォーキングのポイント

正しいフォームで、ややきついと感じるペースで歩く!

背筋をすっと伸ばしてあごを引き、まっすぐ進行方向を見て、つま先から歩き出すこと。腕はひじを軽く曲げてリズミカルに振り、かかとから着地するのが正しいフォームです。
歩いていて“ややきつい”と感じる程度のペースで、脈拍数は110~130拍/分がベストでしょう。
正しいフォームで、ややきついと感じるスピードで歩くのがウォーキングです。
ウォーキングは有効な有酸素運動となり、脳の血液循環をよくします。また血圧上昇の要因となる血管の収縮、交感神経の緊張を緩和してくれます。

ウォーキングをするときは熱中症と紫外線対策をしっかりとすること。
飲み水を携帯して帽子をかぶり、無理をせず適宜休憩をとりましょう。そして、携帯電話と小銭は必ず持ち、万一具合が悪くなったときは助けを呼んだり、タクシーで帰宅するように。
暑さが激しいときや悪天候での運動も禁物です。

このように「呼吸」「歩行」といった、日ごろ何となく行っていることも少し意識してみるだけで、健康習慣となります。同じように、日常の生活の中で、ちょっとした“ひと手間”を意識するだけで、寝たきりになる病気を招くリスクが軽減できます。ここからは日常の中に潜むリスクを回避する、体にやさしい“ひと手間”についてお話をします。

体にやさしい“ひと手間”が暮らしに潜むリスクを防ぐ

起床時と入浴時には要注意

ここまでで解説した健康習慣を実践することは、健康寿命を延ばすために効果的です。しかし、何気ない日頃の暮らしの中には、ささいなことから寝たきりとなる病気を引き起こすリスクがあることも覚えておきましょう。
ここでは、暮らしに潜む病気のリスクを回避する“ひと手間”を解説していきます。

起床時のひと手間

ゆっくりと体を起こしましょう!

加齢にしたがって脳動脈には多かれ少なかれ動脈硬化が存在します。予備動作なくガバッと起き上がってしまうと、脳内の血液循環に異常が生じ、血圧の急激な変化から、めまいふらつきを起こす可能性があります。起きるときは体をびっくりさせないよう、まず仰向けから横になり、それからゆっくり上半身を起こすように意識してみてください。

入浴時のひと手間

浴室の温度に注意しましょう!

家庭内の事故死の4割近くが浴室で起こっていると言われています。
特に注意が必要なのは、入浴時に浴室が寒くお湯の温度が高い、寒暖差が大きい場合です。冷えた体で熱い湯船に浸かると、血圧が急上昇し、心筋梗塞や脳卒中の引き金になります。
しかし本当に怖いのは、急上昇した血圧を下げようとする体のメカニズムによって、湯船に浸かったまま、血圧が急激に下降することです。脳に血液が行き届きにくくなり、ときには意識障害を起こすこともあります。
そのため、冬の入浴前は浴室を温めておくことが大切です。暖房設備がない場合は浴槽のふたを開け、さらに2~3分間シャワーを出しっぱなしにして浴室を温めておきましょう。

トイレの寒暖差にも注意が必要です!

トイレも家の中では危険なスポットです。特に高血圧症の人が、寒い明け方の時間帯にトイレで倒れるというケースは多くあります。これは、寝床で温まっていた体が、急に寒さにさらされて血圧が上昇することで、脳卒中や心筋梗塞、不整脈などを招くためです。寝床から出るときは面倒でもガウンなどを羽織りましょう。

健康寿命を伸ばすためには、健康習慣を実践することももちろん重要ですが、日常生活に細かな“ひと手間”をかけて、リスクを減らしていくことも大切です。
最後に私自身が実践していることも含め、趣味として取り入れていただきたいことを紹介します。

手紙を書いて、楽しみながら脳を活性化!

私は事務的な連絡事項を除いて、できるだけ手書きで手紙を書くことにしています。
最近はパソコンのメールが手紙にとって変わってしまったり、年賀状もほとんどがプリントされたものになって味気がありません。手書きの手紙はその人の息遣いや気持ちが十分に伝わってきてコミュニケーションも深まります。
友人からの手紙が少なくなってきたと感じたら、こちらからの手紙が少なくなった連鎖反応かもしれません。こちらから手紙を書くようにして、手紙のやりとりを増やしましょう。
文字を書くこと自体が、認知機能を高めるうえで有用な手段になることは間違いありませんが、その人の字を思い出して懐かしさを感じたり、思わず笑顔になることもよくあります。そうなると「千字」だけでなく「十笑」にもつながってきますよね。
また、手紙を書くこと以外に、日記をつけることもおすすめしています。日記はどのくらいのことが記憶に残っているか確認することもできます。

手紙や日記を書くときのポイント

手紙や日記を書く時は、大きな文字で丁寧に書くことを意識しましょう。時間を追ってできるだけ詳しく、分からない文字は辞書で調べて漢字を使ってください。
思い出せないことがあったら、家族など身近な人に聞いて記憶の穴を埋めるようにしましょう。

以前は生活に張りがあった方でも、年齢を重ねるなどにより行動を起こすことが億劫になって、毎日をただ流すように過ごしてしまうということも少なくありません。一日一日の過ごし方を想い描き、「一読」「十笑」「百吸」「千字」「万歩」を生活の中に取り入れてみてください。
生活習慣を意識することで一日一日の過ごし方が変わり、時間の密度も濃くなっていきます。生活には彩りが加わり、明るくなっていくことが実感できると思います。
是非、これまで紹介した健康習慣を前向きに取り入れて、いつまでもイキイキと健康に過ごしてください。

その他のコラム